敬愛してやまない石川信義先生

群馬県大田市三枚橋病院の理事長である石川信義先生に、私は多大な影響を受けました。
「開かれた病棟」「心病める人たち」は機会があったらぜひお読みいただきたい石川先生の著作物です。
私は3年半この病院と隣の授産施設精神保健福祉士をやらせていただきました。両方とも先生が苦労して開設された施設です。
その頃、石川先生はすでに70歳を超えていらしたと思います。
外来は引退され、病棟や、デイケアを闊歩しておられました。Tシャツとジーパンでさっそうと背筋を伸ばし歩かれます。朝、デイケアにいらして、メンバーさん一人一人に握手して回られます。
このさりげない行為はできるようでなかなか出来るものではありません。その一瞬に、メンバーさんの状態を把握されます。メンバーさんも先生の力強い握手により今日一日を頑張ろうという気になります。大きな掛け声で一緒にラジオ体操もします。
あとはメンバーさんと将棋をしたり、囲碁をしたり、さりげなくその場にメンバーさんと同じ目線で過ごされます。これで、治療効果大なのです。
メンバーさんは安心し、安定して、1日を過ごされます。
私は長年演劇をやっていたのでデイケアのプログラムとして「演劇クラブ」を立ち上げることをスタッフ会議でお願いしました。
あっさりと承認され、「演劇クラブ」のスタートです。私がこれから何をやろうかと悩んでいたら、石川先生がガリ版刷りの古ーい台本を私に黙って手渡してくださいました。それは、何十年か前病棟のクリスマス会で石川先生や看護師さんたちによって演じられた「赤ひげ」の台本でした。
有難かったこと。これをもとに、私はメンバーさんたちと「赤ひげ」のけいこに励みました。時々のぞきに来られ、「おーやってるな」と声をかけてくださいます。
何カ月かけいこをして、お昼のデザートミーティングの時間に発表会をしました。メンバーさんも私も緊張して、ドキドキあたふたです。
石川先生は一番前列の席に陣取り、「おっいいぞ!」「赤ひげ声が小せいぞ!」立ち回りでは、「そうだそうだやっちまえ」と大きな声で声援を送り続けてくださいます。終わって大喝采を浴び、みんなで最後まで演じきれたことを喜んでいると、石川先生が演じたメンバーひとりひとりと力強い握手をしてくださいます。
私にも黙ってぎゅっと握手をくださいました。その手のぬくもり、言葉では何も言ってくださいませんが、よくやった!という先生の気持がビシバシと伝わってくる握手です。感動です。思わず私は嬉しくて泣きそうになってしまいました。
このように先生は、言葉は少ないけれど、握手と優しさで、いつも大きく包み込んでくださいます。
どのように、心病めるメンバーさんとかかわるか。先生は、自らの態度で示してくださいました。
本当に石川先生には感謝しています。あの頃のことを忘れずに、これからもクライアントさんとしっかりと向き合って接していけたらと思います。
石川先生のことはまだまだ書き足りません。第2弾、第3弾をお楽しみに。